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三連休初日の、土曜日。
枕元、いつもより遅めにセットしていた目覚まし時計が鳴るより早く、私は眼が覚めてしまった。
もぞ、と。ベッドの中でもう一度寝返りをうてば、リビングからの話声が聞こえる。
「……急な仕事が入った。」
「すまない。」と謝るのは父の声。
「……出来るだけ早く、帰って来てあげてくださいね?」呆れる様な母の声。
私は、溜息を吐いていた。
玄関の閉まる音。
数拍の後に、目覚まし時計が鳴る。
一通り、目覚まし時計のベルを聞いていれば、「起こされました。」と言うように右手だけを布団から出して止める。
溜息を吐くと、身体がだるく思えた。
ベッドから抜け出せば、クローゼットから制服を取り出し袖を通す。
部屋の扉を開けると、玄関に立つ母と眼があった。
「おはよう。」一言呟くと、母は少しだけ、悲しげな表情を見せた。
……とても、機嫌の悪い顔だったのだろう。直に、苦笑するように唇の端を持ち上げてみたけれど、上手く笑えたかどうかは分からなくて。
何かが込み上げてくるような感じがして、洗面所へと急いだ。
冷たい水を顔に浴びせて鏡を見れば、やっぱり、とてもひどい表情をしていた。
い、と。歯を見せてみたけれど、鏡に映るのはとても滑稽で。その奥に母が見えれば。
「……何処かに、お出かけ?」
何時も通りを装った声、首を傾いだ姿。振り返れば、こく、と、頷いて。
「……うん、ちょっと、友達に呼ばれたからさ。遊びに行ってくるね?」
着信の無いスマートフォンをかざせば、鏡の前で練習した笑顔。
「……夕飯までには、帰って来るから。」
「いってきます。」小さく呟くと、母の隣を通りすぎて玄関へと向かう。
玄関の扉を開ければ、憎いほどの青空が私を迎えてくれた。
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