第1章

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 空の色は、夕刻を過ぎ、大分薄暗くなってきていた。  思いの外、遅くなってしまっただろうか。  鞄と包みで塞がった左手の腕時計を確認すれば、一つ、溜息を吐いてしまった。  ドアノブに手をかけると鍵はあいている。ドアを開ければ、薄暗い廊下と灯りの漏れるリビングのドアが見えた。 「ただいま。」声を投げるも反応がない。  靴を脱ぎ廊下を進んで、娘の部屋の前に包みを置いて、リビングのドアを開けると、薄く笑んだ娘が其処に立っていた。 「ただいま、……母さんはどうした?」  そう、言ったか、言わないか。  娘に抱きつかれていた。 「どうした?」と、唇が動いたけれど、声は出なかった。  足元が覚束無い。  ただ、脇腹の熱さだけを感じて。じわり、と、広がっていくその熱さは。  娘は、よろ、と離れて廊下へと向かい。  わたしは、膝から床に落ちる。  娘の後姿、右手にきらめいたソレを見ながら、妙に納得できてしまった。  玄関へ向かう途中で、包みに躓いて転んだ娘を見ながら、言わなければならないと思った言葉を、咽喉から押し出す。 「誕生日、おめでとう。……来年は、母さんも一緒に、遊びにいこう、な?」  廊下の先から、誰かの泣声だけが聞こえていた。
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