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月に照らされた村中の道は、まるで知らない場所に来たような錯覚を、あかつきに覚えさせた。
山を切り拓いてこぢんまりと作られた田畑も、道の脇にぽつんと鎮座在すお地蔵様も、視界に入るすべてのものが青々としていた。
ここは、本当に、自分の生まれ育った村なのか。
家を飛び出して、駆ければ駆けるほどに、いつもは意識することすらない日常というものが、あかつきの周囲からぱらぱらと剥がれ落ちているような気がした。
ふ、と怖くなって、足を止める。
知らないうちに、村はずれまで走ってきてしまったらしい。
駆け通しで荒くなる息を整えながら、あかつきは辺りを見回した。
ぎくり、とする。
月明かりにぼんやりと浮かび上がったのは、ぼろぼろに朽ち果てた寺の、残骸のような姿だった。
ここに来てはいけないと……
はずれにある廃寺にだけは、決して近付いてはならないと、村の大人たちから厳しく禁じられていたことを、今更のように思い出す。
慌てて踵を返そうとして、暫し躊躇い、もう一度廃寺を見上げたあかつきは、何かを吹っ切ったように、足早に崩れかけた山門をくぐった。
大人たちの言い付けよりも
廃寺の姿への恐怖よりも
今は、ただ、独りで泣ける場所が欲しかった。
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