■序

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ふたつ年下の弟が、今夜、死んだ。 生まれつき体が弱く、たった七年の人生の大半を床について過ごしていたこの弟を、あかつきは殊の外可愛がっていた。 それは長くは一緒にいられないことをうっすらと予感した、悲しい愛情だったかもしれない。 山門をくぐり抜けると、両脇を立木に囲まれた道が、朽ち果てた本堂まで続いていた。 寺がまだ栄えていた遙か昔には、きちんと掃き清められていただろうその道も、今では雑草に覆い尽くされ、とても道と呼べる状態ではなかった。 草をかき分けるようにして本堂に近付く。 手にも、剥き出しの足にも、いくつもの擦り傷をつくりながら、本堂に上がる階までたどり着くと、あかつきはそこにそっと腰掛けた。 ほっと息をつく。 ぽとりとひと粒の涙が頬を滑り落ちる。 立てた膝に腕を乗せ、顔を伏せると、あかつきは静かに泣き始めた。 境内の満開の桜が、時折吹き抜ける夜風に乗って、はらりひらりと花弁を散らす。 美しく、もの悲しい春の夜は、微かに甘い薫りがした。
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