再生

5/6
前へ
/551ページ
次へ
二人、居たベンチから、出発ロビーまで、無言だった。 「久世さんが、教えてくれたんです。」 手荷物検査のゲートに入る直前になって、葉山祈を振り返ると、彼女はそう言った。 「久世が?」 訊き返すと、葉山祈はうんと小さく頷く。 「先生のこと、待ってます。久世さん。ちゃんと連絡してあげてください。心配、してましたから。」 続いて僕のマンションの鍵を差し出した。 「これ、お返ししますね。」 笑ってはいるが、彼女の手は震えている。 僕はそれに気付きながら、気付かないふりをした。 「……ありがとう。」 持っていて、と言いたい気持ちがないと言えば、嘘になる。 だけど、僕はもう、新しい道へ片足突っ込んでいて、彼女もやはり、僕より一足先に、新しい道を歩み始めている。 中途半端な約束なら、きっとない方が良い。
/551ページ

最初のコメントを投稿しよう!

505人が本棚に入れています
本棚に追加