2回 悪ガキの理由

1/8
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ

2回 悪ガキの理由

 二回表。もうこれ以上、点はやれない。智理も入佐山ナインも、そう思っていた。網川は、立ち上がりが悪くても、立ち直って、無失点という事も何度もある。智理は「初回は、立ち直るきっかけが、作れなかった。俺の責任」そう考えていた。網川に大きく声をかけた。  智理は初球、アウトコース低めにストレートを要求した。気分よく、一番得意な球を投げさせて、立ち直らせるきっかけにと思った。しかし、ボールはど真ん中の高めにきた。  「やばっ!」思った瞬間、打球は左中間に飛んだ。いきなりのヒット。さらに次打者はライト前にヒット。網川に声をかけるが、青ざめている。  「一球、一球、声をかけるのも大変やで」  智理は笑ってそんな事をいった事がある。それも、キャッチャーの大事な仕事だ。なんとか網川を立ち直らせたい。しかし、きっかけが掴めない。コースさえ、きまれば智理は思う。  僕は要求したコースに来なければキャッチャーに責任はないと、単純に考えてしまう。今日は要求したコースを外れて打たれている。しかし、プロ野球のピッチャーでも、毎回、調子がいいという事はない。調子の悪い時こそ、キャッチャーの責任は大きいと智理は言う。高校野球の大会は、一つ一つが負けたら明日はない。しかも、夏の大会は最後の最後である。今日はよく無かったなあ。次頑張れよ、と言えないのが、高校野球のキャッチャーなのだ。  智理は、何事も無かったかのように守備に指示をだす。ノーアウト一塁二塁。ここでまたも、高めに浮いたボールがきた。センターオーバーのタイムリーヒット。三連打でさらに二点を追加されて6対0となった。「試合が作れない」さすがに智理も苛立ち初めていた。  そこに、ベンチから、駆けて来たのは、背番号1、加山蓮哉(かやま れんや)である。富士本先生は、まだピッチャーの交代を告げていなかったが、自らの意志でマウンドに向かった。智理はベンチを見た。富士本先生がうなずくのを確認して、主審にピッチャー交代を告げた。  子供センターに来るのは今日が二回目である。最初に訪ねた時はカウンセラーさんとの面談の確認だった。その上で、実際に子供を呼んで心理テストなどの「診断」を行うと言われた。  「診断」という言葉に、僕は不安になった。いったい智理には何が起こっているのだろう。  
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!