1回 野球をはじめた

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打席に入ったのは、一番、村下 瑠偉(むらした るい)。背番号5。副キャプテンであり、練習試合を含めて、入佐山の首位打者である。俊足好打の内野手だが、大会前の練習試合でエラーを連発してしまい、このままではチームに迷惑をかけると、サードから、レフトへのコンバートを申し出た。責任感の強い彼らしい選択だ。二年生までは外野手だったので、技術的な問題はないが、精神的にどうなのか気になる。  瑠偉は、しつこく相手投手をゆさぶるタイプである。セーフティバントも出来る。しかし、最初の打席は、少し固くなっているように見えた。相手チームの投手は左の背番号1。瑠偉はインコースに来た変化球を打ち上げてしまった。内野フライ。瑠偉が、あっさり打ち取られるとなると、これは手強いピッチャーである。  二番は二年生の大岩。背番号4。小柄な体格だが、智理に言わせると素晴らしい野球センスを持つ。左打者だが、左方向への流し打ちが得意技。職人的なバットコントロールである。しかし、内野ゴロ。早くもツーアウトである。  三番高田 雄大(たかだ ゆうだい)。背番号7。キャプテンであり、前年の夏からチームを牽引してきた。智理とは、中学生以来の親友だが、同じチームで野球をするのは、高校になってからだ。一緒に野球をやりはじめた時、智理は雄大のパフォーマンスに驚いたという。瑠偉の申し出を聞いた雄大はサードに入った。だが、二年生まではサードだったので、こちらも技術的な問題はない。雄大もまた、俊足である。しかし、前年から、右膝に故障があり、痛みに耐えながら頑張り続けてきた。キャプテンのヒットで反撃を、応援が盛り上がる。ファウルでツーストライクまで粘ったが、見逃した6球目、無情にも審判の右手があがった。  智理はさっと、守備に向かった。まだ、勝負ははじまったばかりだ。 鴻巣の冬は長い。一度、雪が積もると、グラウンドは使えなくなり、野球の練習も体育館での基礎練習となる。遅い春が来た。智理、小学校4年生の春である。  悪ガキぶりは相変わらずで僕ら夫婦も振り回されていたが、いよいよ高学年。少しは落ちついてくれるのだろうか。  いよいよスクールカウンセラーの先生と合う日がきた。まず、親との面談。僕はこれまでの経緯を話す。その上で、本人との面談となる。親は席を外した。  智理と先生の面談は結構長かった。面談が終わると先生が説明にこられた。
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