1回 野球をはじめた

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 「どうでしょうか?」  僕は身を乗り出して質問した  「そうですね、まず」  「はい」  あまりにすごい勢いで返事をしたのか、カウンセラーの先生は、まあまあ、という感じでゆっくりと答えた  「短い時間なので、森川先生の話しと、お父さんの話しを参考に話しをしてみました」  「そうですね。智理くんは、大人をまったく信用していない感じですね。むしろ警戒している。多分、自分では悪気はなくても、もっと言えば、なにもしていないのに、叱られ、怒られで自然と警戒するように、なったんでしょうね。私にたいしても、この大人は、何で自分に会いに来たのか警戒してましたね」   目線を下に向け、ときおり、うかがうように上目使いにじっと見ていたという。野球の話しもしてみたが、うん、ああといった調子で終始警戒している様子だったそうだ。  「これは、強制でもなんでもないんですが」  「こどもセンターで一度診断を受けて見るのもいいと思います。その上で、今後の育児について考えるというのはどうですか?」  「こどもセンター?こどもセンターには、なにが、あるんですか?」  こどもセンターとは、僕らの頃は児童相談所といった。そういえば、昔、母に言われた事がある。  「悪い事をすると、児童相談所につれていくよ」  そこに行くと、親からはなされて鑑別所に入れられるというのである。今となっては、そんなのは嘘だったとわかっているが、個人的なイメージとして、相当問題のある子が世話になるところ、という感じがあって、児童相談所の世話にならなければならないほど、最悪なのかと、ショックだった。  それを察したのか、カウンセラーの先生はこう言った  「こどもセンターと言うと、びっくりされるかもしれませんが、そんなに警戒することもありません。むしろ育児については、プロ集団なので色々、適切なアドバイスも、もらえます。場合によっては医師も相談にのってくれますし」  なんでもやってやるんだ。そう決めた僕である。こどもセンターに行く手続きを、お願いして教室をでた。外では、智理が相変わらす、落ち着きなく、走りまわっていたが、僕を見ると駆けて戻ってきた。  「なんやったん?」  「いや、大丈夫」  そう答えると、また走っていった。
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