第1章 プロローグ

2/2
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
前日まで雨がふっていた。明日は試合できるんかなあ。そんな天候である。 ここは兵庫県、鴻巣市。人口は約9万人。兵庫県の北部に位置し、日本海に面する。平成の大合併で面積は兵庫県で一番広くなった。しかし人口密度は逆に県下最低である。海に面しているが、大半は山である。中心部は盆地で、夏は高温多湿、冬は豪雪にみまわれる。高齢化率は県で上位を争い過疎化がすすむ。典型的な田舎である。 話はこの地での、僕たち親子の12年間の歩みである。時に親子共同して、時には僕は僕自身、子供は子供自身と。野球で言えば何度も逆転されながら延長戦に突入して尚、亀甲したゲーム。今振り返っても、これが苦労したのか、楽しかったのかわからない。それでも僕たち親子は必死だった  "アスペルガー症候群(AspergersyndromeAS)は 興味感心やコミュニケーションについて 特異であるものの、知的障害がみられない発達障害。「知的障害の無い自閉症」と言われている。  兵庫北部で唯一の県高校野球予選が行われる、地元、鴻巣市の鴻巣スタジアム。  一塁側、入佐山高校野球部の応援席は大歓声の後、静まりかえっていた。4番、西浦康貴(にしうら こうき)の打った打球はレフトスタンドを直撃して、跳ね返りグラウンドに戻ってきた。審判は最初、これをホームランと判定したが、再協議の結果、エンタイトルツーベースとすると主審から説明があったのだ。一瞬の静寂の後、どよめきが起こった。僕はネクストバッターズサークルから打席に向かう、智、わが子、寺谷智理(てらたに とものり)を見た  「5番キャッチャー寺谷くん」  アナウンスが流れると、さっき満面の笑みでホームインした康貴がセカンドベースに向かって走りだした。  智は打席に入ると、チラツと僕の方を見た。目があった?いや、彼はベンチのサインを確認したのだろう。でも、僕には自分の方を見たように思えた。  「プレイ!」  主審がコールすると、智は右足に重心を置いて構える独特の打撃姿勢に入り、ピッチャーをにらみつけた。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!