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6年生が引退して新チームに以降した橘スピリッツは連戦連敗だった。しかし、明るい話題もあった。少しずつではあるが、新入部員が入りはじめたのだ。正式に監督に就任した柱屋コーチも、この人数なら、野球らしい野球ができるのも、間近だと、喜んだ。とくに4年生は一気に5人も増えた。ところがである。3年生になった智理の同級生はだれも入団してこないのだ。柱屋監督はぼやくように言った。
「智理のせいだ」
当時、智理は橘小学校でも有名な悪ガキだった。とにかく落ち着きがない。授業中に教室を走り回ったり、同級生や下級生に意味なく手をあげたり、器物を壊したり、突然奇声をあげたり、留守中の友達の家にかってに上がりこんだり。言いだしたらきりがない。
保護者の間でも有名で僕が智理の父親だとわかると
「あのやんちゃな寺谷くんの」等は日常茶飯事で、
「まったく、どういう躾をしているのか」と、あからさまに言われるのも度々である。
こんな調子だから、同級生の保護者も、できれば関わりたくないといったところだろう。
僕も嫁もこれには真剣に悩んだ。監督がぼやくのも当然である。
嫁がいう
「同じ親が育てているのに、なんで智理はああなんだろう」
兄の至誠は特別ではないが、問題行動をとるような子供ではなかった。だが、智理は怒っても、叱っても、まるで効果がない。むしろ、逆効果である。
野球をしていても、練習中に勝手な行動をはじめたり、気にくわない事があると、泣いて、だだをこねたりと、大暴れである。時には手がつけられなくなって、つれて帰ったこともある。
そんな有り様だから、親が付き合え無いときは練習にいかせるのも心配になった。僕は中小企業のサラリーマン。特に土曜などは、休めない事も多く心配で仕事にならない有り様である。
それを察してくれたのが、春季の母でチームのマネージャー役だった福島さんと、智理の同級生でもう一人の三年生、門岡祐司の父、誠二さんだった。福島さんは僕の同級生で、チームの厳しいお母さん。誠二さんは、うちの一家が、この地に引っ越して来て以来、ずっと世話になった、チームのお父さん。いずれも、人数の少ないチームの役を引き受けてくれた人である。僕が練習に行けない時はこのふたりが、智理を引き受けてくれた。本当に頭が下がる。
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