1回 野球をはじめた

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智理が、初球にあえて変化球を選択したのは、これを感じて緩急とイン、アウトに振り分ける配球で網川の立ち直りを促すためだ。しかし、今日はコントロールも良くない。「打たれたらキャッチャーの責任」が、智理のポリシーである。悪い時には悪いなりのリードをしなければならない。本来の力さえ発揮出来れば抑えられる網川である。しかし、ストライクが入らず、それを意識しすぎた網川は、智理の要求したコースに投げ分けれなくなっていた。相手は強打のチーム。甘いボールは見逃さない。結局さらに一点を追加され、初回から、四点のビハインドとなった。  智理、小学生3年生の秋。僕は小学校の面談に行った。この年の担任の先生は兄、至誠の担任だった、森川先生。兄が卒業した後、智理の担任になった。問題児智理対策だという、噂も聞こえてきた。前年に6年生を送り出して、すぐ3年生の担任なのだから、僕もそう思っていた。しかし、事情はなんであれ、兄弟合わせて、三年目の付き合いになる森川先生に受け持ってもらえるのは、正直、ありがたかった。恥も外聞もないという心境である。森川先生は、若いが熱心に指導してくれる先生で、至誠もしたっていたから、安心である。  森川先生は、智理の物事の受け止め方や、とらえかたを、よく、分析してくれていた。  「どう躾たらいいのか分からない。兄と同じようにやってるつもりなんですが」  思わず僕は愚痴を言ってしまった。森川先生は、こたえてくれた。  「至誠くんは、ちょっと誘惑に弱い面もありましたが、素直でまっすぐな子で、根性もありましたね。野球でも、結局レギュラーには慣れなかったけれど、最後までやりとおしました。そう考えると、智理くんも、親御さんの躾どうこうではないように思います」  「しかし、なぜ、智理はああなんでしょう。僕も嫁も、何が、どう空かんのか、迷ってるんです」  先生は、しばらく考えてこう答えた。  「智理くんは、確かに、問題行動が多いです。授業が進行しなくなりそうになったことも有ります。しかし智理くんには智理くんなりの思いや考え、とらえ方があるみたいですね。先日、阪神淡路大震災の授業がありました。その時に、実際の震度7を体験出来るトラックが本校にやってきたんです。智理くんその体験カーに真っ先に飛び乗ったんです。どうしたと思います?」
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