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幼馴染の手を掴んだまま直也は自分の家に向かって歩き出す。距離にしておよそ歩いて30分ほどの距離。先ほど旅客機が衝突し原型を留めていないスカイツリーと、そして来る時の平穏な光景とはまったく違う光景に直也と幼馴染は驚きつつも足を進める。
「直也……一体何が起きてるのかな?」
幼馴染はとても不安そうな表情で直也に尋ねる。
「分からない。でも、安心しろ。俺がお前を守ってやる」
「え?」
顔は真っ直ぐ向いているが、直也からの予想外の言葉に幼馴染は驚きを隠せなかった。幼馴染は小声で言う。
「……ありがと」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもない! それより、お母さん達無事だといいな」
「大丈夫さ。俺達だって生きてるんだ。みんな絶対に生きてるさ」
直也達はビル群のある場所に差し掛かる。
直也達は、そこにあるビルのいくつかが損傷を受けており、崩れかかっていることに気が付いていなかった。そしてそのビルから決して大きくはないが、人に致命傷を与えるには充分過ぎる大きさの破片が崩れた。
直也は違和感を感じて破片の落下に気がつく。
「あぶない!」
そして自分の意思とは無関係に咄嗟に幼馴染を突き飛ばした。大きな衝撃音と砂煙で突き飛ばされた幼馴染は何が起こったのか分からずにいた。ただ、先ほどまで手を繋いでいた直也の姿が確認できなかったことに酷く不安を覚えるのみであった。
「直也……」
直也は落下してきた破片の下敷きとなっていた。直也の腰から下はその破片に押しつぶされていた。おびただしい量の血が辺りを赤く染める。だが、これほどの重症にも関わらず奇跡的に直也の意識はかろうじて存在していた。
直也の姿を見つけた幼馴染が駆け寄る。
「直也!!」
幼馴染の必死の叫びに薄れる意識を必死に保つ直也。
「……っ、ん……」
声にならない声が直也の口から漏れる。幼馴染の叫び声と周りの阿鼻叫喚
の騒音、それら全てが直也の薄い声をかき消していた。
「……に……げろ。絢夏っ!」
命を賭けたその必死の叫び声は一瞬だけ周りの騒音に打ち勝ち、絢夏と呼ばれた幼馴染の耳へと届いた。
泣き叫ぶ絢夏の姿が薄れる意識の中に映り込む。
そして意識が消える刹那、直也は絢夏の背後の空にこのとてつもなく大きな事件の真相を見た――。
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