1人が本棚に入れています
本棚に追加
――それは、とある日の夕暮れ時。
『彼』は、目の前に立ちはだかる現実離れした存在に、ただただ呆然としていた。
『ソレ』は、一応ヒトの形をしてはいる。だが、身体に比べて腕が長く、逆に足が短い。そもそも身長が、一般男性の二倍はある。
そして、極めつけ。『ソレ』は、人の影がそのまま三次元になったように全身真っ黒で、身体の線がぼやけている。
目を丸くしている『彼』を尻目に『ソレ』が動き出した。長い腕を振り上げこちらに向かって振り下ろしたのだ。
「冗談だろ!」
横に飛び込むように避け、受け身を取る。お陰で制服は汚れてしまったが、この状況で構っていられない。
(親にイヤイヤやらされてた合気道の技術が、こんなとこで役にたつとはね)
『彼』は半目になり、胸中でぼやいた。
すると、『ソレ』がのそりといてこちらを見た。
その奥をちらりと見ると、見事に地面が抉れている。
(あー……、マジ勘弁)
『彼』は心底げんなりした。しかし、すぐに意識を異形へ切り替え、次の一手を考える。
(動きは鈍いから避けることは簡単だけど、範囲と威力がなぁ……。とりあえず、避けながら隙をみて逃げるか)
プランは決まった。『彼』は一度深呼吸すると、専心のために合気道の構えをとった。
再び腕を振り上げる『ソレ』。その動きに合わせるように重心を移動する。
――が、次の瞬間。
「させないっ!」
そんな叫び声と共に人影が割り込んで来た。
左腕につけている丸盾と、右手に持つ細身の長剣。その姿はさながら剣士に見える。
だが、そんな事がどうでもよくなる程に『彼』は驚いていた。
「え? オマエもしかして……」
目の前にいる剣士に『彼』はそう話しかけるほか無かった。
最初のコメントを投稿しよう!