第1章

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「…………今の彼ね、」 頬杖をつきながら、ぽそり、水野が話し始めた。 「すごく優しい人なの。 正義感の固まりみたいで、曲がったことが嫌いな、まっすぐな人」 ふふふ、と笑みを漏らしながら思い浮かべているのは、彼の顔なんだろう。 「誰にでも優しくて、ひさしぶりのデートに後輩連れてきてニコニコしてるんだよ」 「なんか、分かる」 航大さん………悠花の彼氏だった俺の先輩とイメージが重なり、つられてふ、と笑みがこぼれた。 連れられていったのは、誰でもない俺だったけど。 「昔自分が所属してた少年野球チームでコーチやってたり。 何にでも全力で、今まで私の周りにいないタイプなんだよねぇ」 「そう………」 「私、思ったことはっきり口に出すほうじゃない? だから結構喧嘩は多いんだけど………。 この前、ささいなことで言い合いになったとき 『こんなに喧嘩ばっかりで疲れる! 高校の頃と付き合ってた人とは、穏やかで喧嘩もなくて安心していられたのに! 今は息つく暇もない!! 別れなきゃ良かった!』 って、言っちゃったの」 「…………キツいな」 「でしょ、私も言ったあとすぐに、しまった、って思った。 でも…………彼が 『俺も同じこと思ってた。 今、一緒にいるだけで嫌なこと全部忘れられる、日だまりみたいに穏やかな子がいて、気になってる』 って。 ショックだった、自分のこと棚に上げて」 驚く俺と視線が合うと、弱々しく微笑む水野。
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