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「…………今の彼ね、」
頬杖をつきながら、ぽそり、水野が話し始めた。
「すごく優しい人なの。
正義感の固まりみたいで、曲がったことが嫌いな、まっすぐな人」
ふふふ、と笑みを漏らしながら思い浮かべているのは、彼の顔なんだろう。
「誰にでも優しくて、ひさしぶりのデートに後輩連れてきてニコニコしてるんだよ」
「なんか、分かる」
航大さん………悠花の彼氏だった俺の先輩とイメージが重なり、つられてふ、と笑みがこぼれた。
連れられていったのは、誰でもない俺だったけど。
「昔自分が所属してた少年野球チームでコーチやってたり。
何にでも全力で、今まで私の周りにいないタイプなんだよねぇ」
「そう………」
「私、思ったことはっきり口に出すほうじゃない?
だから結構喧嘩は多いんだけど………。
この前、ささいなことで言い合いになったとき
『こんなに喧嘩ばっかりで疲れる!
高校の頃と付き合ってた人とは、穏やかで喧嘩もなくて安心していられたのに!
今は息つく暇もない!!
別れなきゃ良かった!』
って、言っちゃったの」
「…………キツいな」
「でしょ、私も言ったあとすぐに、しまった、って思った。
でも…………彼が
『俺も同じこと思ってた。
今、一緒にいるだけで嫌なこと全部忘れられる、日だまりみたいに穏やかな子がいて、気になってる』
って。
ショックだった、自分のこと棚に上げて」
驚く俺と視線が合うと、弱々しく微笑む水野。
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