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「それで、距離置くことになったの」
「…………」
「なんか、売り言葉に買い言葉じゃないけど、もういいやって。
一人になると、なんか冴島君ばっかり思い出すの。
自分から別れたくせにね。
素でいられて、本音が言えて。
いいことしか思い出せなかったんだけど………。
さっきの野いちごの話で、納得」
一度瞼を伏せて。
「甘酸っぱくて懐かしいのは、もうすっかり過去になってたからだね」
俺を見て、そう笑った。
黙ったまま、微笑みとともに頷く。
「冴島君は?」
「ん?」
ポケットから携帯を取り出しながら、返事をしていると。
「どんな子なの?その、ネコの彼女」
手のひらに乗った俺の携帯を指差す水野。
持ち上げると、ゆらゆらと愉しげに揺れた。
「女除け?それ。
絶対冴島君が、自分で買って付けたんじゃないよね。
やるなぁ」
クスクスと声をたてながら揺れるネコを見つめている。
答えに詰まって、右頬をかく。
「ね、どんな子?」
「フツーだよ、ホントに」
手持ち無沙汰で、またタバコに火をつける。
携帯画面は暗いままで、メールも着信もないことを無言で告げていた。
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