第1章

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「それで、距離置くことになったの」 「…………」 「なんか、売り言葉に買い言葉じゃないけど、もういいやって。 一人になると、なんか冴島君ばっかり思い出すの。 自分から別れたくせにね。 素でいられて、本音が言えて。 いいことしか思い出せなかったんだけど………。 さっきの野いちごの話で、納得」 一度瞼を伏せて。 「甘酸っぱくて懐かしいのは、もうすっかり過去になってたからだね」 俺を見て、そう笑った。 黙ったまま、微笑みとともに頷く。 「冴島君は?」 「ん?」 ポケットから携帯を取り出しながら、返事をしていると。 「どんな子なの?その、ネコの彼女」 手のひらに乗った俺の携帯を指差す水野。 持ち上げると、ゆらゆらと愉しげに揺れた。 「女除け?それ。 絶対冴島君が、自分で買って付けたんじゃないよね。 やるなぁ」 クスクスと声をたてながら揺れるネコを見つめている。 答えに詰まって、右頬をかく。 「ね、どんな子?」 「フツーだよ、ホントに」 手持ち無沙汰で、またタバコに火をつける。 携帯画面は暗いままで、メールも着信もないことを無言で告げていた。
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