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じ、と俺を憐れむように見つめる瞳。
「私なら、そのままの冴島君を受け止められるよ。
お互いにいろいろ経験したからこそ、もっと強い絆で結ばれると思う。
私が一番、冴島君を、幸せに出来るよ」
勝ち誇ったようにクッと、水野の顎が強気に上がった。
───あぁ、どうしてやろうか。
笑いが、止まらない。
「………何がおかしいの?」
後から後から湧き出る可笑しさは、今の水野には不愉快だろうと腕を折り曲げて口元を覆っていたけれど。
生きる仕組みに逆らうことは出来ず。
息継ぎがかえって水野の神経を逆撫でしたようで。
歪んだ口角を隠しきれないまま、冷静を装って俺を直視する。
「───いや、随分な自信だな、と思って」
「…………」
すっかり短くなったタバコを、靴の裏に擦り付けて、強制鎮火する。
それに伴う、条件反射。
『もおっ!!先生の靴、いつか大炎上しますよっ!!』
俺の癖をむう、としながら腕にしがみついて制するカオルが隣にいるようで、またひとつ、笑みが生まれる。
プリプリしながら、俺の羽織る上着の内ポケット。
まるで自分の鞄のように手を入れ、定位置から取り出してくる携帯灰皿。
カオルが俺の誕生日にプレゼントしてくれたもの。
「いーんデス、メンドクサいカラ」
そう返して、なにかのオマケでもらった、ボロボロになった別の吸い殻入れにしまうけど。
本当は汚したくなくて使えない、なんて言ったら、どんな顔するだろうか。
「────誰が、幸せにしてくれ、なんて頼んだ?」
使えないくせに、持ち歩いているターコイズブルーの携帯灰皿を取り出し、手のひらに乗せる。
ふわり。
ほころぶ、花。
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