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水野の言葉が、俺を刺す。
誰よりもそのことを思う、俺を。
「お願い、冴島君…………。
目、醒まして?」
水野の手が俺の首に回される。
重力に逆らえなくなった雫が、頬を伝って落ちていくのを黙って見ていた。
「もう一度、私を見て…………」
囁くようにそう言うと、ゆっくりと近づいてくる水野の顔。
ピントが合わなくなり、唇が触れそうになったその瞬間。
「─────水野、」
ピクッと唇が、跳ね、動きを止めた。
「これ以上…………汚さないで」
ゆるりと離れ、お互いの視界いっぱいに輪郭が収まるほどの距離になる。
潤んでいるのに、光を映さない水野の瞳に、胸が泣く。
「嫌いにさせないで。
─────頼むから」
首から去っていく細い腕。
睨むように俺を見つめたかと思うと。
静かに降り出す雨のように、雫は次第に筋になった。
決壊した涙腺。
顔を覆い、声を隠すことなく号泣するその肩を、ただただ見守る。
水野に触れるのは、もう、俺じゃないから。
黙って見上げた月には、レースカーテンのような薄雲がかかり、ぼんやりと柔らかな光を落としていた。
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