176人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
***
「ん」
「あ……ありがと」
落ち着きを取り戻した水野に、自動販売機で買ってきた飲み物を渡す。
それを受け取りながら、水野がくすりと笑う。
「なんか、ホント妬けるね」
「?」
「これ。
彼女の好み?」
渡したペットボトルを俺に見せる。
「あ、」
カオルが好きな、濃厚な果汁がウリのそれ。
つい癖で、自分のブラックコーヒーと一緒に無意識に選んでいたようで。
言葉に詰まった。
「だよねー、こーゆーの冴島君の好みじゃないもん。
買ってあげてるんだぁ」
さっきまでの殺伐とした雰囲気が、まるで憑き物が落ちたようにすっきりと消え去っていた。
化粧っ気もなくなっていたけど、その顔で笑う水野の方が可愛いと思った。
「『上等な女』かぁ………。
言われてみたいもんだ。
ドはまりしてんの、冴島君のほうなんだねぇ」
「うるさいヨ」
隣に腰を下ろし、箱からタバコを取り出していると
「一本ちょうだい!」
水野の右手が差し出された。
「…………吸うの?」
「吸うよ、眼中にない男の前では」
にっこり笑うと。
戸惑う俺の指からサッサと抜き取っていった。
最初のコメントを投稿しよう!