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狭くて、暗くて…そんな場所に彼と二人っきり…。
…牢屋ってのもなかなか悪くないかもしれない。
「…藤吉郎の野郎…、俺のこと忘れてやがるのか…?…よくよく考えれば10年以上経ってる訳だし当然か…。」
陽はガックリ項垂れている。そんなに自分の思惑が上手くいかなかったのが意外だったのだろうか。
腕を縛られ、牢屋に放り込まれた私達は刀も奪われ何も出来なくなっていた。
「…どう、するの…?」
「…情けない話だが、こんな事態全く想定してない。取り敢えずはどうにもならんな…。」
いつもの陽と違いとても弱々しい。
多分ここに囚われたことの衝撃より、あの秀吉って人に忘れられてたことが堪えているらしい。
「あの、藤吉郎?秀吉?って、人は誰なの…?」
どっちの名前が正しいのか分からなかったのでどっちも出してみた。
「あぁ、あいつは俺の…」
と陽が言いかけた所で、誰かの足音が聞こえてきた。
地下空間なのでよく音が響く。足音の主は私達がいる牢屋の前まで来て、立ち止まった。
「秀吉様!?どうしてこのような場所に…。」
「ちょっと、この人達と話したくてね。少しだけ外してくれる?」
「しかし、危険では…。」
「大丈夫。だから少しだけ三人してくれないかな?」
「…お気をつけて。」
最後の方は少しだけ威圧感が込められていたせいか見張りの人はこの場所からいなくなってしまった。
そして、この空間にいるのは私と陽と牢の外にいる男の人だけとなった。
「…気分はいかがですか、『信蔵(ノブクラ)』様…。」
目の前の男が発した言葉に、陽が大きな反応を見せる。
「!?…何だよ…覚えてるじゃねぇか、藤吉郎…。忘れちまったのかと思ったわ。」
「忘れる訳ないでしょう。『あの日』のことは今も鮮明に覚えていますよ。」
…全く話に付いていけないのは私だけだろうか。
目の前の男は、陽のことを『信蔵』と呼んだ。
それが、陽の本名…?
「あの、一体どういう、ことですか…?」
「おや、この見目麗しい幼女には何も話していなかったのですか?」
意外そうに男は尋ねる。陽は無言だ。
その無言を肯定と取ったのか、男は続ける。
「この人は、織田信長様の四男。今は『人斬りシンゾウ』と呼ばれている…本名を織田信蔵といいます。」
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