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「うっそ」
セラは枕元に置いてあるアイフォンの電源を入れて顔を顰めた。
今年から一人暮らしで、時間に対し煩く云う人が居なくて油断していた。
休日だからシフトは十二時半から、今は十二時。家からバイト先まで自転車で約二十分。鍵を閉めたり細々した動作を考えると五分で仕度しなければならない。
五分で仕度とか、男じゃなかったら出来ないだろうな。
「バイト行かなきゃ」
のそのそとベッドから這い出ながら僕は呟く。
返事は帰って来なくて、それが逆に自分が一人だということを実感させる。
ぼさぼさの頭を手櫛で撫で付け、Tシャツとジーンズを着替えるとパーカーを羽織る。ジーンズのポケットにアイフォンを差し込み、デスクに放ってあったマフラーと財布を手に自分の部屋を出た。
自室以外これと言った生活感は無いセラの家。物が無いのは単にセラがインテリアに興味が無いだけだが。
キッチンで申し分程度に生活感を示すのは、最新型の冷蔵庫とガスオーブンだった。
セラは冷蔵庫から中身が満タンのペットボトルを取り出すと一気に半分ほど飲み干す。ペットボトルのがぶ飲みは運動をしていた頃の名残だ。
ペットボトルを乱暴に冷蔵庫に押し戻し、代わりに飲むタイプの栄養調整剤を取り出す。
ジーンズのポケットに財布を押し込みマフラーを巻くと、栄養調整剤を片手に家を出る。
「よし、いってきます」
玄関に置いてある自転車に爽やかに跨ったところで、セラはふと思い止る。
「鍵」
静かに自転車を下りると家に戻る。
程無くしてもう一度自転車に跨ると全速力でペダルをこいだ。
▼▼
「カバーはお掛けしますか?」
マニュアル通りのセリフを吐いて、お客さんをチラッと見る。
「お願いします」
「かしこまりました」
決められた動作で本を包み袋に送り込む。
「ありがとうございました。またお越しください」
作った笑顔で誰に対しても同じように同じセリフを言う。レジの店員さんなんてそんなもの。
少しずつ客足が途絶えてきた辺りで、書架整理に移る。
先輩アルバイトの熊谷さんが本の山をカートに乗せながら「おいでおいで」という風にこちらに手を振った。
「篠原、この山が十六であっちが七だ」
「わかりました」
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