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少女は固まって、しばらくの間呆然としていた。瞳がせわしなく動いている。
「で、でも」
「さっきとは違う」
さっきの、怪我の手当てをした後とは違う。『これから相手の身に何が起こるか判っているのに見過ごす』なんてことやったら――――師匠に殺される。
そう、男は言った。
「でも…」
「そんな感じで。よろひく」
あくしゅ。右前脚と右手の。
「…………っ」
少女は意味なく口を開閉する。
手を離し「いくぞー」と歩きだした男に少女は悲鳴のような、
「契約にして下さい!」
頼みごとをした。
「どゆこと?」
「御主人様はわたしと旅をする。わたしは、―――わたしの能力[ちから]の総てを御主人様の為だけに使うことを誓います」
少女の精一杯の交渉だった。わたしがこの人の恩の為にできる最大、はこれしか思いつかなかったのだ。
「……うん。いいよ。お前がそうしたいなら」
じわじわと、少女の顔に笑顔が、
「あ、やっぱ駄目」
「ええっ!?」
浮かばなかった。男はあっけらかんと言う。
「約束にして」
「約……束?」
「そ。約束。やぶったら針千本飲ますから」
「痛い!!」
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