そのいち

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少女は固まって、しばらくの間呆然としていた。瞳がせわしなく動いている。 「で、でも」 「さっきとは違う」 さっきの、怪我の手当てをした後とは違う。『これから相手の身に何が起こるか判っているのに見過ごす』なんてことやったら――――師匠に殺される。 そう、男は言った。 「でも…」 「そんな感じで。よろひく」 あくしゅ。右前脚と右手の。 「…………っ」 少女は意味なく口を開閉する。 手を離し「いくぞー」と歩きだした男に少女は悲鳴のような、     「契約にして下さい!」     頼みごとをした。 「どゆこと?」 「御主人様はわたしと旅をする。わたしは、―――わたしの能力[ちから]の総てを御主人様の為だけに使うことを誓います」 少女の精一杯の交渉だった。わたしがこの人の恩の為にできる最大、はこれしか思いつかなかったのだ。 「……うん。いいよ。お前がそうしたいなら」 じわじわと、少女の顔に笑顔が、 「あ、やっぱ駄目」 「ええっ!?」 浮かばなかった。男はあっけらかんと言う。 「約束にして」 「約……束?」 「そ。約束。やぶったら針千本飲ますから」 「痛い!!」
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