2/3
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
「ヤベッ寝てた」 電気に打たれたように起き上がった男の衝撃に草が飛び散る。 男はガリガリと髪を掻いた。元々ボサボサのくせにさらに爆発する髪。漆黒の、やや長めのそれを後ろで無理矢理束ねた。 くあ。 大欠伸。 「んー…段ボールも新聞も無しに……。冬だったら死んでたなこりゃ」 全く危機感の無い口調。表情。覇気の無い眼。顔。どうやら根本的に鈍いらしい。 死体のように這って川岸まで行きそのまま顔を水に沈めた。 「……………」 ………。 「………ッ……」 でゅばァッ!! 「ばぁ!?ぶふァーっ!!無いこれは無いまじ死ぬくらい眠い!!」 睡眠重視らしい。 無造作に水をふりとばし男は立ち上がった。 右を見て、左を見て、 「朝日はまぶしいからイヤだ」 左方向へ歩き始めた。 元がそうなのか、汚れたのか着流しは黒。腰に帯びた刀の鞘も黒。髪も、やる気なさげな眼も黒で、生気の無いその雰囲気では夜なら闇にまぎれてしまいそうだ。 「……?」 ふと、足を止める。眼を細める。 「…。……犬…?」 男は草むらに僅かに見える物体へ近付く。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!