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「ヤベッ寝てた」
電気に打たれたように起き上がった男の衝撃に草が飛び散る。
男はガリガリと髪を掻いた。元々ボサボサのくせにさらに爆発する髪。漆黒の、やや長めのそれを後ろで無理矢理束ねた。
くあ。
大欠伸。
「んー…段ボールも新聞も無しに……。冬だったら死んでたなこりゃ」
全く危機感の無い口調。表情。覇気の無い眼。顔。どうやら根本的に鈍いらしい。
死体のように這って川岸まで行きそのまま顔を水に沈めた。
「……………」
………。
「………ッ……」
でゅばァッ!!
「ばぁ!?ぶふァーっ!!無いこれは無いまじ死ぬくらい眠い!!」
睡眠重視らしい。
無造作に水をふりとばし男は立ち上がった。
右を見て、左を見て、
「朝日はまぶしいからイヤだ」
左方向へ歩き始めた。
元がそうなのか、汚れたのか着流しは黒。腰に帯びた刀の鞘も黒。髪も、やる気なさげな眼も黒で、生気の無いその雰囲気では夜なら闇にまぎれてしまいそうだ。
「……?」
ふと、足を止める。眼を細める。
「…。……犬…?」
男は草むらに僅かに見える物体へ近付く。
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