0人が本棚に入れています
本棚に追加
雨の日の橋の下には誰もいないことを僕は知っている。
ただでさえ雨で暗い気分になるのに、こんな薄気味悪いところに来ようと思う人間はいないからだ。
でもそんな場所に僕は立っていた。びしょ濡れのまま泣きながら。
僕には好きな人がいた。けどその人にも好きな人がいた。
知っていたんだ、でも好きだった。付き合うことができなくても仲良くしてくれるだけで良かった。[お友達]としての笑顔を見せてくれるだけで良かった。
心の中で[好き]の感情を殺して過ごしてきた。そう、さっきまでは。
街の中で彼女を見かけた。可愛い淡いピンクのワンピースを着て楽しそうに笑っていた。その隣には、彼女にお似合いのかっこいい男の人がいた。
ズキリと痛む胸を無視して二人からそっと目を逸らした。
どこかでこうなることが分かっていたはずだった。頬を染めて幸せそうにしてる彼女を見てしまう、そんな時が来ると。
小雨が降り始めた世界で、人は小走りにかけていった。僕は慌てて屋根のある場所へと逃げた。彼女たちはバス停の下で雨宿りしていた。
目で追わないようにしたいはずなのになぜか追ってしまっていた。そして見てしまった。
人の少ないバス停で、[彼]は[彼女]にキスをした。
頭が真っ白になった。
真っ赤になって照れてる彼女と悪戯に笑う彼。外せぬ僕の視線。見えぬ二人以外の景色。聞こえぬ雑音。
本降りになり始めた雨にもかかわらず僕は走り出した。どこに行こうとしてるのかもわからないままただ闇雲に。
ふと気づいたら橋の下にいた。
そういえば小さい頃によく来てたなぁ。悲しいことがあるたびにここに来て泣いてたっけ…
「どうして」
震える唇で呟いた。
答えは簡単だ。二人が両思いで、カップルで……愛し合っているから。
分かっているから余計に苦しかった。それこそ涙が止まらぬくらいに…
僕は止まぬ雨の中、子供のように泣き続けた。
最初のコメントを投稿しよう!