夏休み、牛物語

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おばさんの家には、小さい頃に行ったきりしばらく行っていなかった。 おばさんのところでは、酪農を営んでおり、牛を飼育し乳製品をつくる仕事をしていた。 母親が出かける前に唯一の助言があった。 「絶対に牛をバカにしちゃいけないよ! お父さんは昔、牛をバカにしておばさんとケンカになったのよ。 それからあまり北海道にはいかなくなったのさ。 牛に対する愛情はすごいわ。 少し変な家族って思うかもしれない。 でも、いい人たちだから安心していっておいで」 新千歳空港に降り立つとおじさんが迎えに来てくれていた。 おじさんの顔には数個、ほくろより少し大きな斑点がついていた。 昔、会ったときにはそんな斑点はなかった覚えがある。 挨拶もそこそこに僕は、おじさんが運転する車に乗り込んだ。 空港からおばさんの家までは、車で3時間ほどあった。 その間、おじさんはほとんど喋らなかった。 僕は、後部座席からおじさんの腕にも広がる黒い斑点を見ていた。 牛の模様のようにそれは見えた。 『少し変な家族』、母親の言葉を思い出し、これから向かう場所に不安になっていたが、 広大な北海道の景色に見とれて、そんな不安も忘れていった。
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