第1章

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加藤とそんな会話をしていると 岸本が小さく身動ぎをした。 「けい…ちゃん……?」 どうやらだいぶ意識が覚醒してきたらしい。 「あぁ、玄野 計 俺の名前だよ」 「玄野 計……」 彼女がそう呟いた時だった。 [あーた~~らし~~い あ~さがきた] 部屋の中央に置かれた黒い球体…… ガンツから、あの忌々しラジオ体操の歌が流れだし部屋中へと鳴り響いた。 きた…… 皆がガンツへと注目し、球体から現れた銃器に目を奪われるなか 玄野は岸本を加藤へと託すと一人アタッシュケースへと手を伸ばす。 その中には見慣れた漆黒のスーツが入っていた。 そして、自分のスーツと加藤と岸本のアタッシュケースを手に取ると 困惑した様子で視線を動かしている二人へと差し出す。 「コスプレみたいだけど…… その格好よりましだと思うから着てきたらどうだ?」 まずはそう口にしながら岸本へとスーツの着用を促した。 岸本は一瞬の躊躇の後、アタッシュケースを受け取り廊下へと消えていく。 「やっぱりスゲーよ計ちゃん…」 「?」 「こんなワケわかんねー状況なのに冷静でさ おまけに、あの娘の事までちゃんと気を配ってあげててさ……」 次に加藤が差し出されたアタッシュケースを受けとり 「そんなことねーよ 俺だって戸惑ってるし…… あの格好じゃ可哀想だと思ったのも事実だけど… このスーツだって、あの不思議な球体から出てきたから何か意味のある物なんじゃねーかって思って持ってきただけだし……」 「なるほど… でもよぉ…」 中に入っているスーツを広げるとそのデザインに思わず顔をしかめるが 「こんなピチピチのスーツを着ろってーのか…?」 「お前も付き合えよ… 彼女だけに恥ずかしい格好をさせらんねーだろ…?」 最終的には、その言葉に渋々といった様子で溜め息をつきながら頷いてくれた。 「じゃぁ、俺はあっちの部屋で着替えてくるから 加藤は彼女が帰ってきたら廊下で着替えてきてくれ」 玄野はそう言い残すと奥の部屋へと向かって足を運ばせた。
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