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『 6月14日
今朝、雄太が貧血で倒れた
自然学校の集合場所には
桐子が遅れて送って行ったらしい
今日は他にも驚く事があった
雄太が私に話かけて、
体を気遣ってくれた事
本当に…とても嬉しかった
ずっと話しかけてくるなんてなかったのに
そんなことがあったから
今日はこんなに晴れていても
きっと雨が降ると思う 』
「…なに、それ……」
知らず知らず擦れた声が漏れる
それと同時に目の前の文字がぼやけ始めた。
変えたかった未来は、何も変わっていない
だけど――――
「…降ってるよ、雨
そこから……見えてる?」
ゆっくりと窓の外を見上げて静かに訊いた。
その声は雨音に溶けて
やんわりと吹きこんだ風が俺の体を撫でた時、
「お兄ちゃん
遅いー、まだー?」
襖の向こうからの声に
「……あぁ 今、行くよ 」
俺は手の中のそれにもう一度目を落として
ゆっくりと文字を辿る。
”――――お父さん”
そっと閉じたそれを段ボールにしまうと
俺は加奈の元へと足を向けた。
今を変えたい -完ー
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