今を変えたい

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今を変えたい

生ぬるい風が網戸を通り、頬を掠めた。 いつからか続いている長雨が 古びた畳を一層軋ませる その雨を暫く眺めていた俺は 視線を戻して手に持った本に紐を掛けた。 老朽化が進んで 来月にはなくなるこのアパートからの引っ越しに合わせて、 何年もそのままにしていた父の部屋は 今は幾つもの段ボールが乱雑に置かれいる。 今縛った本をその隣に置くと、 俺は中身を纏めようと引き出しを開いた。 と、その時 奥にある小さなノートが目に留まる。 「…………………」 そこに記された暦は、今から5年前 父さんの日記が こんな所にしまわれていたことに驚きつつも、 懐かしい筆跡に引き寄せられた俺は 薄い紙をゆっくりと繰り始めた。 小さなノートの中で日付が変わっていく そこに綴られているのは 俺が小学5年の頃の『日常』 記憶の切れ端が繋がり始め、 それと同時にだんだんとページを繰る手が重くなる。 そして隣に余白を残した、最後のページ 一番上に記された日付は 『6月14日』 それは父と最後になるなんて思わずに 言葉なく別れた、あの日の日付だった。
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