95人が本棚に入れています
本棚に追加
「雄太…!
急ぎなさい、あと30分じゃない」
僕を見るなりお母さんが眉をひそめる
だけど僕はその目を強く見返しながら
息を切らして尋ねた。
「――――お父さんは?」
「…え?」
「お父さんは?
まだ会社行っていない? どこ?」
「…雄、太?」
それはいつからか
口にすらしていなかった名前
だんだんとお母さんの表情が変わっていく
驚きや戸惑い、そして
ほんの僅かな涙が僕の瞳に映りこんだ時、
「…雄太?
……おはよう、
今日から自然学校だったな」
(――――――――――)
奥の襖が開いたと同時に
僕は思い切り後ろを振り返った。
―――お父さん
僕を見て柔らかく微笑むその姿に
胸が痛いほど熱くなる
と同時に
今の僕の中に根付いている感情が邪魔をして
『早く言わなきゃ』 と思うのに
それ以上の言葉が続かない
最初のコメントを投稿しよう!