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「……雄太、
間に合わないから急いで…」
声を落としたお母さんの声が
僕たちの間を通り抜ける。
「ほら、急ぎなさい
帰ってきたら… 話、聞かせてくれ」
僅かに目を細めたお父さんが
ドアを引きながら僕に背を向けた。
(―――行っちゃう )
「駄目、行かないで
――――お父さん!!」
僕は叫んだ
閊えていた胸の箍を壊すように
「――――――――――」
ゆっくりと振り返るその目が僅かに開く。
その目に映るのは
何とも言えない表情をした僕
ここから…何て言えばいい?
今日乗るタクシーに
トラックが正面から衝突してくるって
…お父さんは死んじゃうから
行かないで って?
そんな風に『事実』を伝えたところで
信じて貰えないって判ってる
「…き、のう
夜、すごく咳をしてた
それに…声がおかしいから…」
途切れ途切れに言えたのは
そんな嘘だけで
そんな僕を見てお父さんはまた少し目を開いた。
その表情…
何が言いたいかなんて判ってる
今までろくに返事もしなかったのに
どうしたんだ? って
だけどあれから、ずっとずっと思ってた
野球を見に来てくれたことも、
参観日に来てくれたことも、
友達に冷やかされたからって気にせずに、
お父さんともっと話せばよかった って
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