MY LONELY TOWN

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 どこへ行こうとも、どれだけ時が経とうとも、結局ここへ戻ってきてしまう。戻りたくないけど戻っている、男は一種のジレンマに陥っていた。  物理的には、選択の余地がある。どこへ行くか、歩みを進めることを命令するのは男自身だ。金縛りにあっているわけでも、抗えない力に操られているわけでもない。そういった空想科学的な妄想はとうに捨て去った。  男は今二十三歳。純粋な妄想を抱くには都会の空気を吸い過ぎた。  この町へ戻ってきた。最後に来たのはいつだったか。  覚えている。一年前の三月だ。旧友が引っ越すとかで、手伝いをさせられた(と言っても向かいの一軒家に移るだけ)。戻ってくるつもりなどなかったのに、何かと理由をつけては戻ってきてしまう。決定権は自分にあるのに、何かに踊らされていうような悪意さえ感じる。  いや、違う。男は確かに自分の意志で、ここに戻ることを選んだのだ。  都会の空気とは違う、淀んでいない空気がむしろ害だ。すさんだ都会に慣れ親しんだこの身には、純朴な片田舎は純粋すぎて辛かった。
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