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それだけ言うと朝香は立ち去った。いや、消えたと言った方が正しいか。
病室へ戻ると彼女はまだ俺の体に向け声を掛けていた。
そこにあるのは俺の体だけで俺自身はいないというのに。
その姿を見ていられず俺は家に戻る事にした。
家の前まで来て俺の足は止まった。
家の前に1人の少女が立っていたからだ。
近付いてみると、あの写真に写っていた女の子だった。
仲良さそうに俺と手を繋いでいたあの少女だ。
確か奈々とかいう名前だったはず。
その少女はすぐに歩き出し、隣の家に入って行った。
どうやら家が隣だったらしい。
そんな近くに少女がいたとは思わなかった。
俺はとりあえず家の中へ入る。
見間違いでは無い事を確かめる為に自分の部屋にある写真を確認した。
あの少女は紛れもなく、この写真に写っている女の子だ。
しばらく写真を見ていると、思っていたよりも時間が経っていたのか誰かが帰ってきたようだ。
階段を上がってくる音が聞こえる。おそらくは雪だろう。
この少女が家の前にいたぐらいだ。学校は既に終わっていたのだろう。
雪は帰ってくるなり着替えてすぐに俺の部屋に入ってきた。
そして写真の前に立ち、口を開く。
「今日奈々が家にくるからね。お兄ちゃん」
それだけ言うとすぐに部屋を出て行った。
この子が家に来るのか?
と、そうこうしているウチに家のインターホンが来客を知らせる。
その音が聞こえると雪の足音も聞こえてくる。その後には玄関の扉を開く音も。
「さ、上がって?」
「うん。おじゃまします」
という声が聞こえて来て、階段を上がってくる二人分の足音が聞こえてくる。
そして扉を開く音が聞こえる。
しかし、開かれたのは雪の部屋ではなく俺の部屋だ。
少し壁際に寄り2人を見ると、2人は俺がさっきまで見ていた写真の前で立ち止まった。
「奈々が来たよ。お兄ちゃん」
いや、今更だが写真に話し掛けるのやめろよ。俺は…いや、俺の体はまだ生きてるんだから。
「写真に話し掛けるのやめようよ。なんか優くんが死んじゃったみたいだよ」
奈々の言うとおりだ。俺はまだ生きてる。たぶん…
「そうだね。でも私達学校があるから中々病院に行けないからさ」
「そだね。でも明日は土曜で学校休みだから病院行くよ」
「うん。もうお母さんが帰ってくる頃だしご飯食べて行きなよ」
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