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「お母さん、ただいま」
「雪、おかえり」
彼女は雪と呼ばれた女の子の方へ振り向く。
「お兄ちゃんどう?」
「まだ意識は戻らないわ。ずっとこのままの状態になる可能性の方が大きいんだって」
そう言って再び涙ぐむ。
「そっか…」
そう言って雪は台所を後にする。
彼女は料理の続きを始める。
俺はもう一度雪を追いかけてみる事にした。
二階から物音が聞こえる辺り、どうやら雪の部屋は二階にあるようだ。
俺はゆっくりと階段を登り、廊下を見渡す。
廊下には扉が3枚。恐らくは雪の部屋、俺の部屋、両親の部屋なのだろう。
だけどどの部屋が誰の部屋なのかは覚えていない。
一つの部屋から物音がする。
階段から数えて2枚目の扉だ。そこに雪が居るのだろう。
ノックすら出来ないのでそこは諦めて部屋の中に入る。
そこには私服の雪がいた。
制服から着替えたのだろう。
着替え終わっていて良かったと心底思う。
記憶にないとは言え、恐らくは妹の着替えを覗くところだったからだ。
兄として、いや人としてそれはどうかと思う。
「お兄ちゃん帰って来てよ…いなくなっちゃやだよ…」
そう言って雪は涙を流す。
彼女と同じように暫くその体勢のまま泣き続けた。
ドアがノックされ声が掛けられる。
「雪、お父さん帰ってきたからご飯にするわよ」
「分かった」
そう言って雪は立ち上がり、涙を拭う。
そんな彼女達の姿を見て悲しくなるが、俺にはどうすることも出来ない。
リビングへ向かうと、3人がテーブルを囲み食事をしていた。
そこには明るい雰囲気は無く、ただただ重苦しい空気だけが漂っていた。
そんな中男性が口を開く。
「なぁ母さん」
「何?」
「優の事なんだが…」
優って俺の名前だ…
「もう意識が戻る事は無いのか?」
その質問から暫く沈黙が続き彼女が口を開く。
「…えぇ。意識が戻る可能性は限りなくゼロに近いそうよ」
「そうか…」
それっきり誰も口を開く事は無かった。
その後、風呂に入り、皆自室へと入って行った。
誰も入らなかった二階の1枚目の扉がおそらく俺の部屋の扉だ。
少し怖いが入って見ることにする。
記憶が無くなる前の俺がどんな俺だったのか少しはわかるかもしれない。
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