7月16日

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部屋に入ると案外普通の部屋だった。 勉強机があり、ベッドに本棚。これといって変わった所は無い。 改めて部屋中を見回してみると、本棚に目が止まった。 そこには数枚の写真が立ててあった。 その内1枚の写真に目を惹かれる。 写真には俺を含め3人写っている。俺と雪、そしてもう1人の女の子。 俺が雪と女の子に挟まれて写っている。それだけだとそれ程目を引くような事も無いのだけれど。 俺はその女の子と仲良さそうに手を繋いでいる。 なんだこれは。こんなの俺は知らないぞ、と。それはそうだ俺には記憶が無いんだから。 でも何故かこの写真だけは凄く気になる。 俺にとって物凄く大切だったもののように感じる。いや、実際のところ記憶が無くなる前の俺には大切なものだったんだろう。 その時部屋の扉が開かれる。 入って来たのは雪だった。 知ってか知らずか、本棚の前に立つ俺の横に立つ。雪には俺の姿が見えてないわけだから分かってるはずがないんだけど。 「ねぇお兄ちゃん」 「雪?」 もしかして俺が見えてるのか? 思わず返事をしてしまった。 雪はずっと俺が見ていた写真を見ている。 やはり見えてないし、声も聞こえてもないみたいだ。 「早く帰って来てよ。奈々が待ってるよ?」 奈々って誰だ? あの写真を見ながら言ってるとこを見ると、俺が手を繋いでる女の子の事なんだろうと思うんだけれど。 「奈々って誰だよ?」 聞こえないと分かっていても聞いてしまう。それ程に気になる女の子だ。 雪はそれだけ言うと部屋から出て行ってしまう。 「ちょっと待てよ!奈々って誰なんだ!」 そう呼び止めるが俺の声は虚しくも雪には届かない。 そのまま自分の部屋へ戻ってしまった。 追いかけて雪の部屋までいったが、雪はベッドに入り寝てしまったようだ。 例え起きていたとしても俺の姿は見えないし、声も聞こえないんだから問い質すわけにもいかないのだが。 それでも追いかけずにはいられなかった。 この女の子は俺にとってとても大切な存在のような気がしたから。 知らなきゃいけない気がする。いや、思い出さなきゃいけない。 そう思う。
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