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「あなたは何をしているのですか?」
そう話しかけてくる1人の男性。
彼女の方へ視線をやるが、気付いた様子は無い。
「あなたですよ」
そう言って男性は俺を指差す。
「俺が見えるのか?」
「ええ。僕はあなたと同じような存在ですからね。ただ違うのは僕にはあなたのように帰るべき体が無い事ぐらいですかね」
男性は自分は幽霊だと言う。
信じられる話では無いのだが、俺自身幽霊なので頭から否定することも出来ない。
「疑ってますね」
それはそうだろう。俺は今まで自分以外の幽霊というものに出会った事がないのだから。
「これなら信じますか?」
そう言って男性は近くにあった棚を触って見せる。
すると男性の手は何も無い所を通過したかのように棚を通り抜けた。
「その顔は少しは信じてもらえたようですね」
「まぁな」
「僕は朝香 颯太と言います。よろしく」
そう言って朝香は手を差し出してくる。
「俺は橘 優」
差し出された手を握り返す。
驚いた事に幽霊同士なら触れる事が出来るようだ。
「少しお話しましょうか。何せ誰かと会話するなんて久しぶりなものですから」
朝香は嬉しそうに笑顔を見せる。
「あなたのお話も聞かせてもらいますよ?」
その言葉に頷き朝香の後を追う。
病院の中庭にあるベンチに腰掛ける。
「座れるのか?」
「ええ。少し意識をしてやるだけで大丈夫ですよ」
言われた通りにベンチに座ると意識してみるだけで簡単に座れた。
「ほらね?」
そう言って朝香は俺に笑顔を向けてくる。
「それで話ってのは?」
「いえ、これと言ってないんですが、あなたがあまりにも辛そうな顔をしていたものですから。少し気になりましてね」
見られてたのか。
「俺には記憶ってのが無いんだ」
「それはそれは」
大変ですねー。と朝香は他人事のように続ける。
確かに朝香からすれば他人事なのだけれど。
自分から話し掛けて聞いてきたくせに、と思う。
「それでも母親が悲しむ姿を見るのは辛い。という事でしょうか?」
「母さんだけじゃなく家族が、だ」
「なら早く体に戻ってあげればいいじゃないですか」
「それが戻れないんだよ」
「なるほど。もしかしたらそれはあなたの無くしてしまった記憶に関係あるのでは?」
「どうすれば良いんだ?」
「思い出しなさい」
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