第1章

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あと少しで完成というところで、さすがに外も暗くて時間も遅かったから、僕は桃ちゃんを家まで送ることにした。 「あーぁ、あともうちょっとで完成したのに!」 ため息を交えながら桃ちゃんは独り言のようにつぶやく。 「仕方がないよ、また明日やろう。あそこまでできてれば明日は飾るとこまでできるよ。」 2人暗い夜道を歩きながら、完成したら部屋のどこらへんにかざるのか、ついでに学校の宿題を一緒にやろうかなどと、他愛もない話で盛り上がっていた。 僕にとって幸せの時間のうちの一つだった。 そして桃ちゃんの家の前まで来た。僕はまた明日!と言って後ろを向いて歩き始める。 後ろからじゃあねーという声が聞こえた。僕はその言葉に妙な違和感を感じ、なぜだか悪寒が走った。しかし暗い道に自分が心のどこかで恐怖を感じているだけだと言い訳し、その違和感と悪寒を無理やり振り払った。 桃ちゃんが家に入り、ドアの閉まる音がした。 その直後、桃ちゃんの家から怒鳴り声が聞こえ、ガラスの割れる音がした。 僕は桃ちゃん家に向かって走り出していた。 僕の後ろから近付いてきている爆音を鳴らしている車のせいで、桃ちゃんの家の怒鳴り声が聞こえない。 桃ちゃんが泣きながら家から飛び出してきた。 「あぶないっ!!」 爆音を鳴らしている車の前に桃ちゃんは飛び出してしまったのだ。 僕の叫びは桃ちゃんに届いたのだろうか。その刹那はおそらく5秒程度のものだが、僕には1年ぐらいに感じた。 全てがスローモーションになったように思えた。 次の瞬間、桃ちゃんはゴツッという鈍い音とともに空中へ投げ出された。 僕は目を閉じてしまった。暗い道には車のブレーキの音と人間の体に傷がつく音が響いていた。 僕が目を開けた時、そこには凄惨な光景が広がっていた。 「も、桃ちゃん?嘘だよね?」 僕はぼそぼそとつぶやきながら倒れている桃ちゃんに近づいて行った。 その時車のドアが開いて、助手席から金髪で、ピアスをいくつも開けていていかにも不良っぽい人が出てきた。 「ひぃ!どうすんだよこれ!」 僕はそいつの言葉は無視して桃ちゃんの安否を確かめようとどんどん近づいていた。チンピラの言葉なんか気にしている場合ではない。 しかし、運転席から降りてきた人間を見た瞬間、無視するわけにはいかなくなった。
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