-西田の事情-

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歩道の脇に原付を止め、シートに腰掛けた。 ヘルメットの顎紐を外しながら俺は見上げる。 Be good 警備保障株式会社 赤羽営業所 18:32 築40年は経っているであろう雑居ビルの3階に事務所はあった。 エレベーターなどはない。狭くて傾斜のきつい階段がただ真っ直ぐと伸びている。 両端の黒ずんだ蛍光灯が不規則に明滅を繰り返していた。 溜め息を飲み込んで、一度大きく息を吐きそれから事務所の扉を開ける。 「お疲れ様です」 その声にスマホを弄っていた所長が顔を上げた。小さく手を傾げ俺を呼ぶ。 「拓ちゃん今日から1人だったよな。まあ、安全第一で、何か困ったら西田に聞いてくれや」 「はい。わかりました」 lineの着信音がまた所長を呼ぶ。 この2ヶ月弱、会社の研修施設、現場でのOJTと訓練を重ね今夜から担当地域を1人で受け持つことになった。 仕事に不安は無かったが、この事務所に配属され見えてきたことがある。 それは…… そこに、ちゃらけ上手の営業さんが帰ってきた。 「お疲れ様です」と言う俺に軽く右手を上げると所長の机に鞄を置き話し始める。 俺はパーティションで仕切られた更衣室へ行き制服に着替える。 「山ちゃん、セットできた?」 「所長、今夜はナース。しかも看護学校出たての」 「おーそれは期待しちゃうか」 悪代官と越後屋の笑い声が事務所に響く。
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