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「もう……信じられません」
そう呟いて君は俯いた。
眉間に皺を刻みながらも下げられた眉。そして伏せられた睫毛が小刻みに震えていて、その不安を如実に伝える。
鈍色の空から落ちる雨粒から逃げるようにやってきた町はずれの木の下は、少しだけ寒い。
予想はしていた。
僕の決意は彼女の望むものではない。何を言われてもなじられても僕は、僕の決めたことを変えるつもりはない。だから全てを受け入れるつもりだった。
でも、いざ目の前でそんな哀しげな顔を見るとやはり胸が苦しくて、腰に下げた大小が俄かにその存在感を増した。
「本当に……行ってしまわれるのですか?」
「……うん」
「私が何と言おうとお気持ちは変わらないのですね」
「……そうだね」
きゅっと、胸の前で掌を握り締める君。
その水仕事に荒れた指すら愛おしくて仕方ない。泣かせたくなんてない。側にいたい。君だけが欲しい。
だから、僕は行かなくちゃいけない。
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