1話

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 クライスが深く溜息をつくのを、アルブレヒトは申し訳なさそうに見つめた。 「それで、一日俺の噂を聞いて、それでもここに来たわけか?」 「勿論。だって、誠意を示すって言ったから」 「…本当に、本気だと?」  睨むようなクライスの視線を正面に受けても、アルブレヒトは怯む様子もなく、ただ頷く。ただそれだけが、彼の答えのようだった。 「物好きめ。言っておくが、俺はお前の望むような人間じゃない。お前が真剣だとしても、俺はそれに靡かないぞ」 「いいよ、それでも」  なんでもなく言ってのけるアルブレヒトに、クライスの方が面食らう。  分かっていないバカでもない。それでも、いいと言うのだろうか。 クライスは困ったように、アルブレヒトを見た。 「考えてたんだ。今まで、相手の気持ちなんて求めなかったから、どうしたらクライスの気持ちごと貰えるのかって。でも、気持ちごと貰いたいから、伝え続けるよ。まずは、本気だって事と、誠意をね」 「お前の誠意が一番信用ならないだろ」 「うん、僕もそう思う。けれど、分かってもらえるまで通うから」  アルブレヒトの真っ直ぐな視線が、この気持ちの真実を伝える。  そんな事をされても、クライスは困る。  嫌な奴なら、一蹴して終われる。けれどアルブレヒトは、違う。どれだけ罵っても、クライスを悪くは言わないだろう。そして誠実に、伝えようとするだろう。  自分の気持ちが、クライスから離れてゆくまで。  不意に、人の気配が近くなった。恐れもなく近づいてくるアルブレヒトは、とても柔らかく笑ってみせる。毒のない、欲求も見せない、そんな顔で。 「まずは、今日から。好きだよ、クライス。今日少しだけ、貴方の事を知る事が出来た。クライスも、僕の事を知ってくれた?」  言葉がなくなる。急に自分がしている卑怯な行為が恥ずかしくなってきた。相手の気持ちを弄ぶような事をしている自覚があるだけに、この純粋な視線は何より刺さる。 「明日も、来るつもりか?」 「勿論」 「俺はお前の気持ちを受け入れないぞ」 「そのうちほだされるのを待つよ。クライスは、僕の言葉を聞いてくれるんだから、可能性はあるよね」 「家に入れない」 「それは僕が許さないよ、兄さん」
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