クライアントNo.03 アネモネ

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 休日、クルミは、親子二人の貴重な時間を大切に過ごした。  晴れた日は、近所の大きな公園で駆け回り、雨の日は、家でお絵かきやオモチャ遊びにナオの気の済むまで付き合った。  普段忙しくて、コンビニで済ませる事の多い食事は、手料理に置き換えるように努力した。  決して、上手とは言えなかったが、ナオは嬉しそうに顔中汚して「おいしい」と平らげた。  ハンバーグ、カレー、オムライス…。ナオのリクエストに応じながら、クルミのレパートリーは増えていった。  二人は、楽しい時を過ごしながら成長していった。  そんな日常を過ごすクルミにとって唯一の楽しみは、給料日の一人居酒屋。密やかな楽しみとささやかな贅沢。 ナオを寝かしつけた後こっそり、近くの居酒屋で一時間ほどビールやチューハイをたしなんで帰宅するのだ。  母親とはいえ、クルミもまだ若い女性。遊びたい年頃だ。父親の代わりをこなしながら、何の息抜きもないのはしんどい。  そこで唯一気晴らしをすると、クルミは、時計を見て、キッチリとナオの熟睡するアパートへ帰っていくのであった。  神様もこれくらいの息抜きを大目に見てくれるだろう…。  クルミは、寝ているナオの髪をそっと撫でながら、明日の仕事も頑張ろうと決意するのだった。
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