クライアントNo.03 アネモネ

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 そんなある日、クルミは、一人の男性と出会った。居酒屋でのナンパ。  一人でポツンと呑んでいたクルミに声をかけてきたのだ。  面白い男だった。ノリのいいクルミは、軽快な冗談を飛ばしてくる男と完全に意気投合してしまった。酔っていたせいもあるのかもしれない。久し振りに異性を意識した。  男の名前は、リュウヤ。大して格好いい男ではなかった。身なりもそこそこ、顔もまあまあ。痩せた身体に似合わぬ筋肉。ソフトモヒカン、ピアスにアゴヒゲ、ネックレス。奥目に擦り傷。  怪しい職業だったらどうしようと思っていた所へリュウヤが切り出す。  「俺、何に見える?」  「ううん…。ソラマメかな…」  クルミは、首を捻りながらリュウヤに答えた。頭から輪郭にかけてのラインが強いて挙げればそっくりに見えたのだ。  「見た目じゃなくて、職業!ひっどいな、もう」 リュウヤは、目を瞑って、身悶えした。  「ごめん、ごめん。だって漠然と『何』って聞くから…。そうねえ…。ヤクザ…?」  「実は、そうなんだ…。って、あるかいっ!俺こう見えてボクサー。ボクシングやっている人」  テーブルを軽く叩いて、笑いながら答えるリュウヤ。  「それで…。てっきりその筋の人かと」  クルミは、額の所を指差し、ほっとして、笑いだした。  「ひっどいな、クルミちゃん。初対面なのに…」  困ったような顔をしていたが直に二人で笑いだした。時間一杯まで楽しいおしゃべりは続いた。 クルミは、初対面なのに自分がシングルマザーであることも明かした。何となく、リュウヤが気安かったからだ。リュウヤは、クルミに偉いを連発しながらその話を聞いていた。  二人は、互いのメールの交換をした後、別れた。
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