クライアントNo.03 アネモネ

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 二人は、メールの交換から一気に距離を縮めた。出会いの方が先だったこともあるのだろう。  年齢も同い年。若くてノリのいいクルミ。勢いも手伝って、同棲生活が始まった。  出会って僅か、一ヶ月足らず。リュウヤは、見かけは厳(いか)つかったが、優しいし、ナオの面倒も自分の子供のようによく見てくれた。  今度こそ、幸せを掴んで見せる。もう、二度と母親のような過ちは、繰り返さない…。  そう、クルミは、思っていた。  しかし、現実は、クルミの理想を嘲笑うようにメチャクチャに引き裂いた。処刑の執行人が聴衆に残酷なまでにひけらかすようにクルミの心を掻き乱していったのである。  同棲してから、三日目。楽しく食事をした後、テレビを見ながら、缶ビールを飲んでいたクルミとリュウヤ。  些細なことから、急にリュウヤが腹を立て始めた。  いつものリュウヤなら、茶化して笑いに変えてしまうようなごく些細なことだったのだ。  クルミを突然「てめえ」呼ばわりすると、今にも掴みかからんばかりの勢いでリュウヤは、凄(すご)んできた。  クルミはもちろん、少し離れた所でオモチャの一人遊びしていたナオも驚くほどの剣幕であった。  「ちょっと、どうしたの…。いつもなら軽く流すようなことじゃん。リュウヤなら」  クルミは、半分怯えながら、リュウヤを宥(なだ)めようとした。  しかし、赤く血走った目は、鋭く、クルミは身の危険を感じずにはいられない。
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