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「何だと…。俺をバカにするのもいい加減にしろよ、俺を誰だと思ってんだ」
リュウヤは、前にズイと威圧するようにクルミに立ちはだかると、クルミの胸元をねじり挙げた。
「痛い。止めて、苦しい…。何?」
突然のことにクルミは、怖くなり、振りほどこうと体を左右に振った。
子供なりに危険を感じとったのだろう、ナオの泣き声が聞こえる。
「俺に逆らうのか、てめえ。いい度胸だ」
平手打ちが飛んだ。クルミの頭が真っ白になる。痛みでぼうっとする中で必死に何が起きたのか理解しようとした。
続けざまに、リュウヤの拳が飛んで来る。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…。もう二度と言わないから許して。リュウヤ、ごめんなさい」
クルミは、何を謝ったらいいのかは解らなかったが、必死でリュウヤに頭を下げた。
幼いときの記憶が蘇る。父親から受けた虐待の数々。何度も何度も頭を下げた忌まわしい記憶。
そして、前の夫から受けた暴力の数々。色々な記憶がごちゃ混ぜとなり、クルミは、震えながら、リュウヤに許しを乞うた。
「本当だな?」
リュウヤの手が止まった。泣きながら、クルミは、従順を示すように何度も大きく頭を上下させた。
そして、咄嗟にナオの元に駆け寄り、泣き止むように必死に宥め、胸元にギュッと抱き締めた。
何としてもこの子だけは、守らねば…。
ナオもクルミにシッカリと抱きつき、泣き止んだ。幼いながらも母親と自分の身の危険を咄嗟に感知したのだ。
リュウヤは、ふて腐れたように座り込むと、黙ってテレビに向かい、ビールを煽っていた。
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