クライアントNo.03 アネモネ

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 リュウヤの暴力は日増しにエスカレートしていった。殴る、蹴るは当たり前。物が飛んで来たり、包丁で脅されることもあった。     クルミは顔を腫らして出勤することも珍しくなくなった。初めの内は「物もらい」だ風邪だと言い訳をし、眼帯したり、マスクなどで誤魔化していたが、不自然すぎて周りの知るところとなった。  保育園でもちょっとした話題になっていた。あれほど明るく元気なクルミがふさぎ込み、顔中を腫れあがらせてナオの送り迎えをしている。手にも何やら痛々しい傷痕がある。  ナオの方も保育園では暗く沈んでいることが多い。そうかと思うと何かの拍子に突然暴れだしたり、声を上げたり、情緒不安定な一面を覗かせる。ナオの体にもアザのようなものが複数あった。  心配した保育士の一人が、仕事帰りに迎えに来たクルミに声をかけた。  「ちょっといいですか。クルミさん。ナオくんのことなんですけど・・・」  保育士の女性は、最近のナオの様子について、気になることをクルミに告げた。クルミの顔色が曇るのを保育士は見逃さない。  「やっぱり、何かあるんですね。体にもアザがあるようなんです。クルミさんも・・・ですよね。ひょっとして、どなたかから暴力を振るわれているとか・・・」  クルミの内心を探るように保育士がゆっくり言葉を選んでいく。保育士は、確実にクルミの家庭内の環境の変化とDVを疑っていた。  「いいえ、別に・・・。たまたま転んだり、病気したりが重なっただけですから、何にもありません。さ、行こうナオ」  これ以上、話すのは危険と感じ、クルミは忙しさを装ってナオの手を引き家路についた。保育士はDVの確信はあれど、当人に何もないという以上追究のしようもない。また、追究する権利もない。しばらく、様子を見ることにした。  
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