クライアントNo.03 アネモネ

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 そして、車をリモコンキーで施錠するとショルダーバッグを肩に提げ、アスファルトの歩道を歩き出した。  いつものようにTシャツにジーンズ、スニーカーとラフな格好である。それでも、彼女の中にある妖艶さは拭い去ることはできない。アンニュイな葉月の雰囲気と颯爽と歩き続けるみずみずしき果実の弾ける落差。それに加えて、葉月が立ち去るそばから落としていくローズの香りのせいだろうか・・・。  日曜日の昼すぎ。葉月は、今、入院中の義母の見舞いにいくため、病院の駐車場にいたのだ。 ーーー『南里(なんり)大学病院』。葉月の義母、棟方緑の入院している病院の名前だ。千を越える病床と二十を超える科をもつ。外来病棟と入院病棟に分かれる大きな建物は、もはやツインのビルディングの様相を呈し、昨年改築した内装は、シンメトリーを施した中庭を有するなどおしゃれな色彩に富んでいる。  葉月が車を停めた駐車場から見ると、左手に本館の外来病棟、右手に本館の半分ほどの高さの入院病棟がそっぽを向いた形で配置されている。  葉月は迷うことなく、背の低い入院病棟へ向かった。  入り口の自動ドアを入ると、光を取り入れられるガラス張りの広いエントランスで、リノリウムを使った光沢のあるクリーム色の床が広がっている。待合室としての一面があり、窓際には椅子が並べられている。  葉月は、入って右手にある案内所で面会の手続きを済ませると、渡されたバッジを胸の下あたりに着け左手奥にあるエレベーターホールに向かった。  落ち着いた茶系の色で統一されたエレベーターでしばし待ち、長い息を一つ吐くと、やがて到着したエレベーターに乗り込み、いつものように四階のボタンを押した。 エレベーターはゆっくりと昇って行き、到着を知らせるチャイムが一つ鳴るとドアが大きく開き、葉月は四階に降り立った。
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