クライアントNo.03 アネモネ

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 エレベータから降りると、いつもは暗い通路も昼間ということがあり、明るい。光が差し込んでいる。  患者の車椅子を引く、大柄な看護士の女性とすれ違い様に葉月は、挨拶する。  右手に曲がるとナースステーションがあり、葉月は、ここでいつものように軽く会釈して、病室へ向かう。  返事は返ってこない。昼間というせいもあり、ナースステーションには二人しか残っていなかったからだ。  一人は、器具の手入れ。もう一人は、カルテに目を通して何か書き込んでいた。  『402号』室。葉月は、緑の病室の前に到着した。  中は、相部屋でカーテンで仕切られた各部屋には見舞いの家族や客、医師や看護士がいた。  緑のベットは、一番奥の左手、窓よりだ。ちょうど、婦長の冴木麗子と主治医が巡回を終えて、カーテンの中からでてきたところだった。  小柄で華奢な体型の冴木は、葉月の姿を見つけると、笑顔で葉月に手を振った。  そして、再び、カーテンに潜り、窓の方を向いて寝ていた緑の細った背中を優しくノックした。 つい一ヶ月前までは、葉月が来ると饒舌に病院の待遇について事細かに説明していた緑であるが今は面影もない。痩せこけた体に落ちた目窪。土止め色した点滴痕が両手に生々しく残った姿である。  振り返るのも億劫なのか、冴木の助けを借りてやっとの思いで半身を起こし、葉月の方を見る。  「来たのかい・・・」  「ええ、今日は日曜ですから・・・」  葉月は、着替えをロッカーに入れると洗濯物を持ってきたバックの中に詰め込んだ。  緑は、葉月の受け答えに何か左右に文字でもなぞるように目線を上にやる。  「今日は、日曜日かい・・・?」  「そうよ、お義母さんの好きな番組夕方からやるでしょ?」  葉月は、冴木と目を合わせて苦笑いする。入院していると曜日の感覚がずれてくるのだ。毎日同じ顔。毎日ベットの上。毎日同じスケジュール。動けなくなればなおさらだ。
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