『死』の価値。

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行動しようと思えば、あっさりと足は動く。目の前に標的が現れて、無防備に背中を向けたところをねらう。ナイフを腹の位置に構え、片手で柄を握り、もう片方を尻の位置にそえる。あとは走る。 ズブリッと、肉の裂ける音がした。男の呻き声と共に私はそのまま膠着状態にすることなく、ナイフを引き抜いた。鮮血と男の背中がじわりと血で染まる。 振り返りそうになったところを、足蹴にして転ばせる。痛みで気が動転していたのだろう。男はあっさりと倒れた。躊躇することはない、ナイフを振り上げ、そして男の心臓に振り下ろした。 呼吸が荒い。息が苦しい。誰かに見られたかもしれないし、動物を刺し殺していた時とは違う感覚だ。同族殺し。人殺しということになるのだろう。私は他人の命を盗ったのだ。 盗るという言葉に身体が反応する。 長年、染み付いた感覚が復活し、身体がビクンッと歓喜に揺れた。盗る。盗る。 盗る!! 他人の命を盗む!! なんて心地のいい感覚だろうか、もしも、あの男の命を盗ることができれば、今までにない快楽が味わえる。 復讐の炎がユラユラと揺れていた。 新聞の一面に報じられた。通り魔? 殺人犯? 異常者? さまざまな憶測が飛び交う中、犯人は捕まっていないとそんな記事を読みながら、彼はほくそ笑んだ。 「殺しに来たぞ。あんたを殺しに来た」 包帯まみれの格好で、血の匂いがべっとり染み付いたナイフを構える。 「いい目になったな。万引き小娘」 「もう、そんなことしてない。あんたの命を盗る、それだけ」 覚悟を決めた。ナイフを振る。殺してやる。この男を、 「どうした。俺はここにいるぞ。刺したければ刺せばいい。今まで何人もやってきたんだろう? 躊躇することはない、俺の心臓はここだ。ここを刺せばいい」 「…………最後に聞きたい。なんで、家族を殺した?」 「金のためだよ。俺は殺し屋なんだ。金をもらって殺すそれだけだ。それ以外になにがある。人と金の価値を天秤にかけるなら俺は断然、金をとる。そういう男だ。まさか、ここまで来て殺せないなどと言い出すんじゃないだろうな」 男は言う。 「だとするなら、お前の価値はちり紙以下だ。さっさと帰るんだな。小娘」 プチンっと音が消える。無価値? 無価値、無価値、無価値!? 自分は誰にも必要とされていない? なんの価値もない人間? ここまで堕ちたのに?
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