天使の甘言

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逃げ場なんてない。 こうして、じっくり社会の荒波に揉まれ、年を取り、くたばっていくのだろう。 そんなの幸せと呼べるか? おかしいでしょ。なんで好き勝手やってるやつらじゃなくて、まじめに生きてるおれがこんな辛い思いをしなくちゃならない? 「クソゲーだよ、まったく」 「何が……なの?」 爽やかなシャンプーの香りがした。過ぎ去ってく足並みの中、止まった細い足。 聞いたことのある懐かしい優しい声。 顔をあげると、元クラスメイトの村井萌子がそこにいた。 あいかわらず背の低いけど、ショートヘアーが似合う。中学生の頃、僕と唯一仲良くしてくれた子だ。 「村井さん……」 僕は久しぶりに、それも卒業式以来だろう。彼女に会えて心底ほっとした。 彼女は変わらず、僕に笑いかけてくれているのだ。 たまらなく嬉しい。 満面の笑みで僕を見つめる彼女には蔑みの視線なんてなく、人として接されてるのがよくわかる。でも、友達ではないんだろう。いつも、そこは線引きされてる風に感じる。
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