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「そうそう。あれ、結構重かった! だって、二階から運んできたんだよ?」
一年生の教室は三階。彼女はおれのためにわざわざそうしてくれた。
「不良たちは唖然としてたのを覚えてる。あの間抜け面は今でも覚えてる」
おれはベンチにもたれかかって、深いため息をついた。なつかしいけど、もう戻りたくない。思い出というよりトラウマだからだ。
実際、今でも集団に囲まれるとそのときの恐怖を思い出す。
「でも、あれって、都合のいいずるさがあったよね……」
顔にかかった髪の毛を耳に掛けて、彼女は目をつぶった。
おれは悟った。
言うな。
言わなくてもわかる。
「あのとき、止めに入ればよかったんだ」
彼女は苦笑いした。目が笑ってない。視線の先はどこにも落ち着かない。ただ、遠くを見ている彼女は怖いし、それにおれは村井さんのその顔だけは嫌いなんだ。
なんかまちがっちゃったよね? なんて顔。
村井さんは数ある方法の中からベストなのを選択したんだ。
不良に嫌われることなく、俺に好かれ、クラスメイトからは賞賛される。
彼女は最善を尽くしたのだ、他の奴らとは違う。傍観者なんかじゃない。
おれは彼女をずるいとは思わない。
でも、彼女は心のどこかでそんなの考えるのは友達じゃない、と思ってるんだろう。
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