天使の甘言

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家に着くと、俺は即座に二階のベッドに倒れこむ。 「制服しっかり脱ぎなさいよ」 母ちゃんの声がリビングから響いてくる。 枕に顔をうずめ、おれはゲームに手を伸ばす。 カーテンで陽の光を遮った暗い部屋で青白い光を浴びる。 おれはこんなのでいいのか? かちゃかちゃとコントローラを動かし、思う。 こんな青春、楽しいのか? いや、楽しいことは少ないけども、少なくともゲームすると時間を忘れられる。 それって現実逃避じゃない? うるさいなあ。今は、ボス戦なんだよ! わかる? 負けろ。 こんなゲームごとき、楽勝なんだよ!! YOU WIN!!! という文字がディスプレイに表示された。 「おっしゃああ!!」 軽く握りこぶしを作り、ガッツポーズ。ポテトチップスの袋を開ける。 で、勝って何か得れたの? おう! 激レアアイテム「女神のブレスレット」だぜ! あと、おびただしい量の経験値、プラス新しい仲間キャラクターだぜぃ!! 経験値? 所詮、ゲームでしょ? 「は?」 仲間? 現実にはいないのに? 「だまれよ、冷めちまう」 コントローラを持つ手が震える。自問自答? さっきから腹立つ。 このままじゃ駄目ってわかるでしょ? 「だからって、どうすりぇばいいんだよ!!」 壁にコントローラがぶつかる。 おれが投げたからだ。 「恭平! 静かになさい! 母ちゃんね、少し買い物行くから、お留守番よろしく!」 玄関で扉が開き、閉じる音がした。 とたんに、家が寂しくなる。 人の気配がない。 この世に人なんていたのだろうか? なんて考えてしまう。
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