天使の甘言

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無気力だ。 もう何も考えたくない。 このままうずくまって、眠り続けたい。 ふかふかの布団、洗い立ての洗剤の香りのする枕、さらさらのシーツ。誰が用意したんでしょう? 母ちゃん。 半分正解。 父ちゃん? 大正解。答えは両親。 うるさい。眠いんだ。 『そんなんだから、いつまで経っても成長できないんだろうね』 黙れ。そんなの知ってる上で、うだうだしてるんだ。 『知ってて? タチ悪いなあ』 聴きなれたBGMが流れる。 電話? ぬいぐるみの顔が照らされている。 起き上がり、重い足取りで携帯電話の元に向かい掴む。着信は……。 「村井さん!? もしもし!!」 『あ、やっと出た! 今ね、時間ある?』 「もちろん。何でなの?」 『ちょっと、話したいことがあるんだけど』 話したいこと? チャンスじゃん。脱出するんだよ、恭平くん。 わかってる。 「これはチャンスだ」 『へ? どうしたの?』 「なんでもないよ」 『ふーん……。あのね、奢るから駅前のマクドナルドに来れるかな?』 「今から? 時間あるし暇だし……本屋にも用あるしいいよ」 『ホント? じゃあ、本屋で待ってるから』 ぷー。ぷー。ぷー。 切れちゃった。 「……制服のままでいいか」 制服に付いたシワを伸ばし、ホコリを払う。 閉め切ったカーテンを開けると、もう黄色い月が出ていた。 時間は8時か……。
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